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GATS緊急セーフガード制度に関する議論、手詰まり状態
 -第16回サービス貿易理事会特別会合-

 サービスの貿易に関する一般協定(GATS)の下での緊急セーフガードに関するWTO協議は、12月3日から7日に行われた最近の特別会合で暗礁に乗り上げた。セーフガードメカニズムの妥当性に関しWTO加盟国間で意見が分かれ、またセーフガードを従前は支持していた国々の間でその支持が減退しつつあるが、これは進展がないことに主に起因している。これらの動向に照らしてみると、緊急セーフガード措置に関する交渉の期限である2002年3月15日は延期されるものと予想される。

T.サービスのセーフガード交渉の背景

A.セーフガード交渉期限の度重なる延期
 物品の貿易に対するセーフガードメカニズム が存在することを根拠に、WTO加盟国はサービスの貿易に適用される並行するメカニズムの設置を検討するようになった。サービスの貿易に関する一般協定(GATS)には、現在のところ、セーフガードシステムの使用に関する規定がない。しかしながら、第10条 では、緊急セーフガード措置に関する多国間交渉が行われるとされている。第10条はさらに、同交渉の結果は1998年1月までに実施されることと規定していた。しかしながら、サービスの貿易に関して準ずべきのセーフガードについての交渉は、現在までほとんど成果を上げていない。加盟国は、GATSの発効日以来数年間この問題を議論してきたにもかかわらず、いまだ結論に達しておらず、その結果、期日は現在のところ2002年3月15日にまで延期されている。
B.セーフガードに関し分かれる意見
 WTO加盟国は、サービスの貿易に対するセーフガード措置の妥当性および実行可能性について、依然意見が分かれている。ほとんどの先進国は、セーフガードメカニズムの妥当性に関し疑問を持っており、物品の貿易に適用されるセーフガードに使用される概念を安易にサービスの貿易に適用することはできないと主張している。しかしながら、開発途上国は、このような「安全弁」措置を支持し、自由化拡大が開発途上国の国内のサービス供給者に対し与える潜在的重要性に関する不確実性に照らして、これらが必要であると主張している。同措置を支持しているのは、パキスタン、キューバ、並びにタイを筆頭とする東南アジア諸国連合(ASEAN)などである。
 ASEAN加盟国は、2000年3月の提案において、輸入の急増が国内のサービス供給者に脅威を与える場合、政府がサービスの貿易の供給に一時的な制限を課すことを認めるGATS規則を求めていた。同提案は、物品の貿易において使用されるセーフガードの概念を根拠とし、輸入の急増による国内のサービス提供者に対する「重大な損害」のおそれを決定するための調査に従って制限を課すことを提案していた。セーフガード措置は、市場アクセスに関する譲許、内国民待遇、あるいはサービスの供給にかかわる規則上の規律の 一時的撤回の形をとることができる。
 開発途上国のセーフガード擁護派は、GATSの自由化の約束によって生じる不測の事態に一時的な保護を与え、一層のGATS自由化の追求に賛同する国内的な支持を強化するために、セーフガードが必要であると考えている。先進国は、とりわけサービスの貿易の無形の性質に対する配慮の必要性、サービスの貿易に関して確立した統計的情報の欠如、また、サービスは顧客特有の要望に従って提供されることが多いという事実に鑑み、物品の貿易のために設定されたセーフガード条項をサービスの貿易の文脈に置き換えることの実行可能性に疑問を持っている。
C.サービスと物品の性質の相違
 GATSに特有な属性の主要なものを挙げれば、それは「ポジティブ・リスト」方式 と、その結果としての内国民待遇及び市場アクセス約束からセンシティブな分野を除外する構造上の柔軟性である。従って、現行のGATS構造は、新たな自由化が構想される可能性のある特定の分野の懸念に対処するための必要な政策的柔軟性を提供するのに足るものであろう。先進国はさらに、一層の自由化に対する懸念は、将来に使うためのセーフガード措置より、むしろ段階的実施や経過的メカニズムなどの機能を通じて約束をする際に扱うことができると主張している。(⇒ポジティブリスト方式については、本サイトのGATSの概要を参照)
 意見の相違にかかわらず、ほとんどのWTO加盟国は、サービスの提供の性質が物品のそれと異なるため、サービスにセーフガードを適用することははるかに難しいということでは一致している。例えば、サービスの貿易は、ある特定のサービス産業に付随するビジネスの遂行方法を反映した独自の特徴を持つ4つの異なる供給モードに分類することができる。従って、緊急セーフガードメカニズムは、(現在物品に関しそうであるように)単に越境取引だけでなく、4つのモード全てに共通して適用できよう考案されなくてはならない。また、業務上の拠点を通じてのサービス提供(モード3)のような特定のモードに対し取られうるセーフガード措置は、もしそれが投資の撤退を余儀なくさせるようであれば、裏目に出る可能性がある。

U.最近の動向から予想される再延期

 2000年初頭のサービス交渉開始以来、緊急セーフガードの使用に関する議論は、新たな推進力を得ている。最新の加盟国の合意では、交渉終結の期限は2002年3月としている。しかしながら、12月の前回の会議で、加盟国間の意見の対立がますます深まってきていることが顕わになった。特別交渉において、加盟国はサービスに対するセーフガードの創出に関する提案を起草することに合意できなかった。加盟国は、セーフガードの妥当性と同措置の実施手続きに関しても意見が一致しなかった。前回交渉では、セーフガード支持者の間に以前あった結束が緩んできたように見えるのに伴い、いくつかの開発途上国の間で意見の隔たりがあることも分かった。
 主要な未解決の問題の一つは、サービスのセーフガードを実際に適用する方法を決定する手続き及び基準の案出に集中している。例えば、WTO加盟国は、自国の関税域内に設立された既存の外国サービス提供業者によって提供されたサービスにセーフガード措置を適用することができるか否かの議論をしてきた。もしできるとすれば、加盟国は100%外国所有の企業、外国資本が過半数を占める企業、50対50の合資企業、並びに外国の資本参加が少数である企業に与えられる待遇の種類を決定する必要がある。

 12月に行われた最近のGATS特別会議からは、サービスに対する緊急セーフガードメカニズムに関して当面のところ進展する見込みはほとんどないと判断される。WTO加盟国は、サービスのセーフガードの妥当性、並びに手続き上及び実質上の問題に関する意見の相違を解決する可能性に対し懐疑的になっていることが見て取られる。例えば、米国とこれを支持する主要国であるカナダ、チリ、並びにスイスは、セーフガード措置の支持者が一層のGATS自由化を追求するとの明確な約束無しにあり得べきセーフガードの方法論の議論を前進させることに対し、ほとんど意欲を示していない。
 WTO加盟国は、2002年3月の次回GATS特別会議において、緊急セーフガードメカニズムに関する議論を再開することとなっている。現在議論は頓挫しており、開発途上国の間にあった同措置の支持に関する結束が緩んでいるため、現在の2002年3月15日の最終期限は、再び延期されると考えられる。

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