2004年、あけましておめでとうございます。本年も宜しくお願い申し上げます。
今年一年間、テロ対策としてのサプライチェーンセキュリティ・プログラムはどのように推移していくのでしょうか。
思いつくところを書いてみます(少々単純化して書きますので、多少の誇張があるかもしれません)。
1.IT
米国の一連のセキュリティプログラム実施の基盤となるITについて触れてみたいと思います。
米国のセキュリティ・プログラムは、通信ネットワークによる申告データの授受と、データベースによるプロファイリング/ターゲティングを前提としています。一連のセキュリティ・プログラムが完全に機能するためにはこのIT基盤が整わなければなりませんが、いまだ十分に整備されていません。このため、プログラムの運用が不透明になっている感が否めません。例えば、昨年12月5日に、全ての輸送モードに対する事前申告ルールが発表されました(2002年通商法事前申告ファイナルルール)が、事前申告開始日が具体的に定められているのは輸入海上貨物と輸入航空貨物だけで、それ以外の輸送モードについては明示されておりません。これはトラック・鉄道等の輸送モード及び輸出の事前申告に係わる電子申告体制が整備されていないためです。またC-TPAT参加者に対してベネフィットはいまだ提供されていませんが、これは現在開発中の新貿易手続システムACE(Automated Commercial Environment)によるアカウント・マネージメントの実施を待たなければならないと考えられます。すなわち日本を含む外国企業はなお当面の間、体制が未整備なまま実施される米国のセキュリティプログラムに対応していかなければならないと考えられます。
2.ベストプラクティスとグリーンレーン
ロバート・ボナーCBPコミッショナーが、昨年10月30日にサンフランシスコで開催されたC-TPAT参加者セミナーで、次のように発言しました。すなわち「ベストプラクティスで運ばれた貨物はグリーンレーンに乗せられ、C-TPAT参加のベネフィットをフルに享受できるようになるとる」と。
http://www.cbp.gov/xp/cgov/newsroom/commissioner/speeches_statements/oct302003.xml
ベストプラクティスとは以下の5項目を全て満たすものです
① C-TPAT要件を満たしている海外ベンダーによって船積みされる。あるいは、C-TPAT要件を満たしているとC-TPAT輸入
者が保証する海外ベンダーによって船積みされる。
② C-TPATスマート・コンテナを使用している。
③ CSI港から出荷される。
④ C-TPATキャリアによって輸送される。
⑤ C-TPAT輸入者が受取人となっている。
以上の5条件を全て満たさなければC-TPAT参加のベネフィットを享受できないとするならば、当初示されたC-TPAT参加者に対するベネフィット提供のハードルが高くなっていることを意味します。言うまでも無く、C-TPATは法律に基く義務的行為ではなくボランタリー参加プログラムです。参加にあたっては企業とCBPが為すべきことを互いに約束しMOUを交わします。このMOUの中に、CSI港からの輸出であるとかスマートコンテナの使用などという項目があったとは記憶しておりませんが、なし崩し的にC-TPAT参加ベネフィットを得るための条件となってしまうのでしょうか。
ボナーコミッショナはスマートコンテナについて極めてシンプルな要件を提示しています。すなわち、
① コンテナ内部にセンサーを持ち、
② CBPが読み取ることができ、
③ (輸送途中に)開扉された否かを表示する。
このスマートコンテナの使用を義務付けることはないだろうとしながらも、今後CBPとしては、輸入貨物をベストプラクティスによるものとそうでないものに分類して見て行くと語っています。なかなかのプレッシャーです。スマートコンテナとは具体的にはどのようなものなのでしょうか?
ボナーコミッショナーのスピーチとほぼ時を同じくして、シリコンバレーの企業Savi Technology社が、スマートコンテナ用のデバイス(電子シール)を発表しています。それによると、
http://www.rfidjournal.com/article/articleview/655/1/1/
同社の製品Sentinelは、内部センサーによってコンテナ内部の明るさ・気圧・温度変化を記録し、有害物質・放射性物質・ショック・振動の検知し、また扉が開けられた場合にはそれを記録することができるというものです。さらに、GPSや港湾に設置されたRFIDリーダーと連携してリアルタイムで貨物の位置やステータスを把握できる機能も併せ持っていると謳われています。しかしそのコストは1コンテナ辺り15~50ドルと言われており、ベストプラクティスの要件を満たそうとすれば企業にとっては重い負担になるでしょう。CBPがスマートコンテナ利用によって求めている情報とは、現状では、煎じ詰めて言えば輸送途中にコンテナが開けられたか否かに関する情報であって企業の物流効率化に役立つ情報ではありません。
最近、企業のSCM効率化の有力なデバイスとしてICタグが話題になっております。世界最大の小売チェーンであるウオルマートはベンダー上位100社に対して2005年1月までにICタグを装備するようリクエストを出しました。これは個別企業の物流効率化に係わる動きであり、今後このようなICタグを利用した物流効率化の動きは広がっていくと見られますが、しかし、そうであるとするならば、セキュリティ目的の電子デバイスと物流効率化目的の電子デバイスの2系統が並存することになります。CBPの要求としての電子シールと企業の物流効率化目的としてのICタグの両方に投資できる企業は、現状ではコスト面から考えて皆無に等しいのではないかと思われます。したがってこの両者を統合するようなモデル、すなわちセキュリティ目的と効率化目的を同時に達成できるソリューションの開発が必要ではないかと思われます。(この検討のために必要なことは、初めにRFIDデバイスありきと言った発想ではなく、そもそも米国の一連のプログラムがサプライチェーン・セキュリティ目的に照らして本当に有効なものであるのか、まずそこから考えるべきとする意見もあります。)
ベストプラクティスに基いた海上貨物の取扱いは直ぐに実施されるものではありません。まずはスマートコンテナのテストから始まります。しかし、トラックなど米国に近接した地域からの輸入となる陸上貨物については以下に述べるような取組みが実施されています。
3.Smart and Secure Trade Lane Initiative Phase II
上記1.で、トラック・鉄道などの輸送モードでは、電子事前申告環境が整備されていないので事前申告の実施日がまだ具体的に示されていないと述べました。トラック輸入貨物では、海上貨物で利用されているようなAMS(Automated Manifest System)がそもそも利用されていなかったのです。しかしながら事前申告を実施するために環境整備を急いでおり、そのためのベースとなっているのがFAST(Free
And Secure Trade)プログラムです。FAST(Free and Secure Trade)プログラムとは、あらかじめローリスクと認定された輸入者あるいはトラック・キャリアについて円滑な通関を適用するプログラムで、米国・カナダ国境でしか実施されていませんでしたが、昨年8月に急遽メキシコ国境のトラック通関にも参加手続がオープンにされました。米国・カナダ国境で試験実施されていたのがPhase
I ですが、昨年12月にPhase II が発表され、メキシコ国境でも試験が行なわれるようになりました。
Smart and Secure Trade Lane Initiativeでは、RFIDカードを利用してセキュリティを確保しつつ通関を効率化するというものです。
① 利用されるICカードはTrans Core社の「eGo」RFIDカードで以下のような仕様になっています。
- 45mmX85mmX1mmのステッカーシール(ほぼ名刺大)
- 周波数915Mhz、パッシブ、動作距離 5m、1024ビット(読取、書込み、再書込み可)
- 高温・多湿、直射日光、振動に耐える
② FASTプログラムにもとづいてあらかじめ登録されたドライバーと車両に対して上記ICカードが配られます。トラックのフロントウィンドウにICカードを貼るとともにドライバー自身もそのカードを所持します。当該トラックは国境の税関でFAST専用レーンに入り、トラックのICカードとドライバーのカードからデータを読取り、事前申告によってあらかじめ貨物データとともに申告されたトラック情報、ドライバーデータと照合し、問題がなければそのまま通過できる。(ICカードそのものには貨物情報は入っていません)
Phase I では米国・カナダ国境6箇所にこうしたシステムが配備されテストが行なわれてきました。今回発表されたPhase II ではテキサス州エルパソから始まり、今年中に設置場所が拡大することになっています。今回このFASTプログラムのシステムを受注したのは米国のITS Service社ですが、その受注金額は400万ドルで、17万枚のeGoカード、22箇所の国境税関での99レーンにリーダーを設置することが含まれています。
http://www.transcore.com/news/news031205.htm
4.勿論、米-EUとの協議の動向、カナダの事前申告ルールの実施などについても目が離せません。
今年が皆様にとって良い一年になりますようお祈りいたします。
以上