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サービス貿易理事会特別会合10月会議、マーケットアクセス分野の審査を継続

 WTO加盟諸国は10月5日から11日まで、スイスのジュネーブでサービスの貿易に関する一般協定(GATS)の交渉を継続し、特定の分野別提案の審査に焦点を当てた3セッションの会議を終了した(最初の分野別提案は2001年7月の会議中に審査された)。
 10月5日に始まった第1セッションでは、交渉の焦点は自主的自由化、教育サービス、サービス貿易の評価に当てられた。10月8日に始まった第2セッションでは、交渉の焦点は輸送、エネルギー、観光業に当られた。10月11日に始まった第3セッションでは、交渉の焦点は金融サービス、建築、娯楽サービスに当てられた。以下に、最も興味深い提案と議論に焦点を当てる。

T.発展途上国へのGATSのインプリケーションの評価

 キューバ、ドミニカ、ハイチ、インド、ケニア、パキスタン、ペルー、ウルグアイ、ベネズエラ、ジンバブエは、発展途上国へのGATSのインプリケーションの評価、並びに審査のための実行可能な時間的枠組み及びメカニズムに関するペーパーを提出した。
 この提案は、国連貿易開発会議(UNCTAD)による1999年の「発展途上国のサービスの評価:要約」に従って、発展途上国はGATSの下、自国における実施の経験が多くないにもかかわらず、多くのサービス産業において実質的な約束と行ったとしている。また、同提案は、発展途上国は、国境を越える取引(モード1)及び商業の拠点を通じてのサービス提供(モード3)において、より高い割合で完全な義務を引き受けたが、自然人の移動におけるサービス提供(モード4)においては同レベルの譲歩を受けていないことに言及する。この状況の主要な結果として、ほとんどの発展途上国は大多数のサービス貿易において赤字を抱えている。
 上述のUNCTADの調査結果に基づき、加盟諸国は以下のことを提案した。
(i)2002年3月までの調査結果とりまとめ
 加盟諸国と国際機関から幅広く意見書を募集。意見の結果とりまとめは、2002年3月末までとする。
(ii)優先事項の評価
 一層進んだ交渉が開始される前に、第1回の評価を行う。
(iii)評価の継続
 サービス貿易理事会によるサービス貿易評価活動の継続および結果の定期的な公表。
(iv)UNCTADの役割
 UNCTADは、発展途上国に関係する問題に専門知識があるので、評価はUNCTADの支援を受けて行われるべき。その他、この評価プロセスに価値を付加する国連機関からの有意義な貢献も考慮することができる。 

U.自主的自由化

 加盟国によって自主的に約束されるマーケットアクセスは、自主的自由化として知られている。加盟国は、そのような自由化の適用範囲を、全ての加盟国に拡大すべきか、あるいは発展途上国のみとするべきかに関し、いまだ意見が分かれたままである。発展途上国は、自主的自由化により、発展途上国のサービス貿易への参加の増大に関するGATS第4条 が実体化するかもしれないと主張する。しかしながら、第4条の実現に関する決定を行う前に、加盟国は自主的自由化の扱いに関する多国間の基準に合意しなくてはならない。

V.分野別交渉

A. 教育
 オーストラリアは教育に関する提案を出し、この分野の約束を強化する必要があり、その公共的な重要性を考慮すれば、WTO加盟国はこれらのサービスを規制する権利を保持するべきであると主張した。(⇒オーストラリア提案
 加盟国及び非政府組織の一部は、公教育と健康サービスは政府当局によって提供されるサービスと見なされるべきであり、GATS義務の範囲で考慮されるべきものではないと主張している。しかしながらほとんどのWTO加盟国は、GATS交渉はもっぱら民間分野によって提供される健康および教育サービスに焦点をあてることになるだろうと明言している。
B.エネルギー
 10月8日に開催された会議において、各国は、エネルギー分野の分類(現在のところ、国連及びWTOのサービス分類では、項目として立っていない)の見直しの可能性に関する討議を継続した。日本は、エネルギー政策と環境政策の調和化が必要となる可能性があることを指摘した。具体的には、日本は気候変動枠組み条約のための京都議定書 の下、一部の加盟国によって結ばれた約束に言及した。(⇒日本提案:英語、及び日本語
 10月8日の会議では、米国、北朝鮮、ヨルダンによって新たな問題提起がされた。
 ヨルダンは、天然資源の所有権、アクセス権及び利用の問題に関して明確化を求めた。ヨルダンは、これらの問題はGATSの交渉において取り上げるべきものではないと主張する。
 米国は、エネルギーサービスの議論における第一目標は、個々の事業について分野別リストに掲載されるか否か、並びにリストのどこに掲載されるかを明確化することにあると表明した。新たな下位分類が創設されるのは、特定の活動が現行の分野リストに適合しない場合のみである。(⇒米国提案)米国はまた、欧州共同体(EC)に対し、排他的権利と独占をエネルギーサービスの貿易障壁とするECの意見(⇒EU提案)の明確化を求めた。
 さらに米国はカナダに対し、交渉の可能性を石油及びガス分野に限定するか否かの確認を要請した。
 韓国は、エネルギーサービス分野の新たな分類と下位分類に関する交渉の可能性に言及する提案を出した。同国はまた、これらの交渉が進められる方法に関し明確化を求めた。
C.観光業
 加盟国は、ドミニカ共和国により準備された改訂附属書案を受け取った。附属書の目的は、観光業の持続可能性に有害な影響を与える反競争的な慣行を規律することである。この附属書案について、メルコスール加盟国(アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイ)を代表してウルグアイがこれを歓迎し、現行の約束を改善し、サービス提供者に対する差別的制限を除去する第一歩となりうると指摘した。ケニアも、観光業に関する附属書案を支持した。他方米国は、附属書がいかにして持続可能な開発に貢献することができるのか明確に理解できないと述べた。同国はまた、草稿中で使用されている「持続可能な開発」という表現に対し、懸念を表明した。
D.金融サービス
 加盟国は、2001年5月の会議で取り上げられた金融サービス問題の議論を継続している。発展途上国は、以下について繰り返し主張した。
(i)越境取引
 これ以上の自由化約束がされる前に、金融サービスの越境取引(モード1)の範囲と定義を明確化する
(ii)実施
 約束のレベルを上げる前に、既存の約束の実施に焦点を当てる。
(iii)透明性
 国内規則の透明性は必要であるが、透明性の交渉の範囲は、一部の加盟国には不明確なままである。
(iv)標準化機関
 「信用秩序維持のための措置(Prudential Measures)」や表現の明確化に言及する際、WTOは、バーゼル銀行監督委員会、証券監督者国際機構(IOSCO)、並びに保険監督者国際機構(IAIS)などの国際的標準化機関の役割を代行してはならない。

 加盟国はまた、金融サービスにおけるモード1とモード2の関係に関わる問題にも言及した。発展途上国は、GATSのモード1の自由化は、望まれている外国投資を刺激することにならないと主張する。さらにいくつかの加盟国は、国内の機関はグローバル化された金融サービス市場を監督する能力を持たないことを指摘した。
 先進国は以下の意見に焦点を当てた。

(i)マーケットアクセス
 同分野でのより高い自由化の追求によるマーケットアクセス及び内国民待遇の約束の増加
(ii)約束の明確化
 現行約束表の一層の明確化の追求
(iii)国内規則
 国内規則の透明性の向上。
(iv)信用秩序維持のための措置
 金融分野においてGATS約束の免除とされる「信用秩序維持のための措置(Prudential Measures)」の意味を明確化する試み

 米国とオーストラリアは、年金基金下位分野への分類及びマーケットアクセスを改善する必要性を提議した。米国は特に、金融分野での透明性はGATSの全ての分野に適用される一般的な透明性の概念とは異なった扱いを受けるべきであるという意見を押し出している。この意見は、金融分野は所管機関のほとんどによって高いレベルの規制の対象とされており、それが同じレベルでの透明性の適用に困難をもたらしているという事実に基づく。先進国の一部は、金融サービスの約束に関する了解を、同分野における交渉のレベルを測る基準(benchmark)と見なすべきだと提案しているが、発展途上国はこのアプローチに反対している。
 加盟国の一部は、金融サービス貿易(特にeファイナンス問題)への監督の有無及び方法をめぐる法的な不確実性を回避するため、モード1とモード2の範囲を明確化する必要性を提議している。

 進行中のGATS交渉を進捗させる推進力は、ドーハ閣僚会議における新ラウンドの立ち上げに決定的に依存することとなる。WTO加盟国は、実質的なマーケットアクセス交渉を開始する前に新ラウンドが本当に立ち上がるのか、成り行きを見ることになると考えられる。新ラウンドによってサービス分野と共にさまざまな非サービス商品が交渉のテーブルに載れば、加盟諸国はより多くの交渉手段を得ることとなる。
 ドーハ閣僚会議によって新ラウンドが立ちあがらなかった場合、WTO事務局は2002年3月に実績評価会議を予定しており、加盟諸国はサービス交渉に関する討議を進展させるべく集合することとなる。
 他方GATS規則に関する作業部会は、GATSの下での緊急セーフガード措置(ESM)に関し、継続して会議を持つ予定である。10月初旬の会議において米国は、発展途上国の緊急セーフガード措置に関する要望に応じ、GATSマーケットアクセスの拡大という条件でESMに関する協定の可能性を詳細に討議することを決定した(米国のサービス産業界は、ESMに反対しているのでこれに落胆している)。WTO加盟諸国は、12月初旬にESMを検討する予定である。

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