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GATSの概要
サービス交渉は、ウルグアイラウンドで合意された「サービスの貿易に関する一般協定(以降GATS)」で新たな交渉のラウンドを2000年に開始することになっていた
[⇒関連条項] 。従って1999年のシアトル閣僚会合の失敗にも関わらず合意済み課題として現在既に交渉が行われている。
具体的には2000年2月のWTO一般理事会でサービス交渉をサービス貿易理事会特別会合(以降、特別会合)で行うことが決定され、2000年2月25日に第1特別会合が開催された。その後、2001年3月末の第7回会合で交渉ガイドライン
が採択され [⇒WTO事務局プレスリリース・交渉ガイドライン、及び外務省による交渉ガイドラインの日本語仮訳]、最近では第8回会合が2001年5月に開催されている。
GATSとGATT
サービスにおける「分野」は大変複雑で、詳細な分類を当てはめると150近くの個別のサービス分野を数えることが出来る
[⇒WTO事務局のサービス分類MTN.GNS/W/120及び外務省による同文書の日本語訳]。また、個々のサービス分野毎に、そのサービスの実体は大きく異なり、サービスの内容が専門的で且つそれらに付随する政府の規制等が込み入っている場合、それらの内容把握には多くの経験と高度な知識を要する。また、GATSでは、サービス貿易を1.国境を越える取引(cross
border) 、2.海外における消費(movement of
consumer)、3.業務上の拠点を通じてのサービス提供(commercial
presence)、3.自然人の移動によるサービス提供(movement
of personal)の4つのモードに分けていている
[⇒適用範囲に関するGATS協定1条2項(以降GATS協定の条項のみを記す)、及び外務省ウェッブサイトにある「サービス貿易の4態様」参照]。
このため、GATSでは、最恵国待遇、内国民待遇、市場アクセス(譲許表)などの伝統的なGATTの用語・概念を取り入れているが、これらの概念をサービスという新しい土壌に適合させなければならなかったため、その意味するところは両者で必ずしも同様であるとは限らない。また、GATTから更に踏み込んで、GATSでは投資
(上記のモード3)、競争(独占及び排他的なサービス提供者
[8条]及び商習慣 [9条])の問題を扱っている。
特定の約束に係る表、漸進的自由化
個々の加盟国の特定の分野における自由化の約束、及びどのようにそれらの市場を開放するかは、交渉の結果による。特定の約束表は、開放される分野、これらの分野において認められる市場アクセスの程度(例えば外国人所有の制限があるか否かなど)、及び内国民待遇の制限についてのリストとなっている
[⇒20条、及び約束表の例]。
これらの約束は、"bound(拘束的)"であって、その修正又は撤回は、これによって影響を受ける他の加盟各国との(おそらくは各国に対して保証を与えることになる)交渉の後でなければ実施することができない
[21条]。このように"unbinding(非拘束化)"が困難であるため、これらの約束はサービスを輸出する外国人、サービスの輸入者、及びサービス事業を行う投資者にとって、事実上の保証された条件と見なすことができる。
GATSにおいては、市場アクセスと内国民待遇の遵守義務は、提出された約束表の範囲内、すなわち特定の約束を行った分野及び約束に際して付けた条件の下において発生することから、ボトム・アップ(或いは、ポジティブリスト)方式となっている。一方、NAFTAにおいては、免除を提出しない限り全てのサービスをカバーされるトップダウン(或いはネガティブ・リスト)方式になっている点でGATSとは対照的である[⇒NAFTA1201条(Scope and Coverage) 、及び1206条(Reservations)]。しかし、加盟各国が提出した約束の範囲にそのまま留まるようでは、サービス貿易における自由化は限定的にならざるを得ない。そこで、GATSでは、定期的な交渉を通じた漸進的に一層高い水準の自由化の達成を規定している
[19条]。合意済み課題としての2000年からの新たなサービス交渉開始もこの規定によるものである。GATS19(特定の約束についての交渉)、20(特定の約束に係る表)、21条(特定の約束に係る表の修正)から成るGATS第4部のタイトルが「漸進的な自由化」となっているのは、意味無しとはしない。
GATS上の義務
GATS条の義務は、大きく2つに分けることが出来る。一つは、その特定の約束の有無にかかわらず全ての分野について加盟国全てに直接且つ自動的に適用される一般的な義務であり、もう一つは、その範囲が加盟国が市場アクセス及び内国民待遇の義務を負う決定をした分野並びに活動に限られた特定の約束である。
(1) 一般的な義務
最恵国待遇:加盟国は他の全ての加盟国のサービス及びサービス提供者に対して「他国の同種のサービス及びサービス提供者に与える待遇よりも不利でない待遇」を即時且つ無条件で均てんしなければならない
[⇒2条]。ただし、いわゆる2条の免除という形で適用が制限されている
[⇒第2条の免除に関する付属書]。加盟国はWTO協定が効力を生ずる前にこのような免除を記載することができる。新たな免除は、新加盟国についてはその加盟時に、既加盟国についてはWTO協定9条3項のウェーバーによってのみ認められる。全ての免除は、審議に付され、原則として10年を超えて継続してはならない。
透明性:加盟国は一般に適用される全ての措置を公表し、且つ他の加盟国からの情報の要請に応じる照会所を設置することを義務付けられている
[3条]。
その他、無条件に適用される義務としては、許可・免許・資格証明の承認を当てるに当たっての義務
[7条]、並びに独占又は排他的サービス提供者に係る規律
[8条]がある。
(2) 特定の約束
市場アクセス: 市場アクセスは、各加盟国が交渉の結果、特定の分野において約束を行った範囲で他の加盟国のサービス及びサービス提供者に付与される
[16条]。この約束は、GATS16条2項に列挙されている6つのタイプの制限の一つ或いはそれ以上に対して行われる。例えば、サービス提供者数、サービス事業数、特定の分野における被雇用者数或いは取引額などの数的制限、サービス供給者の法的形態或いは外国資本の参加に対する制限を課すことができる。換言すれば、加盟国は、特定の約束に係る表において特段に定めない限り、他の加盟国のサービス及びサービス供給者に対する市場アクセスについて、これらの制限を維持すること、又は新たに課すことはできない。
内国民待遇:加盟国は、特定の約束表に記載された如何なる分野においても、他の加盟国のサービス及びサービス提供者に対し、自国の同種のサービス及びサービス提供者に与える待遇よりも不利でない待遇を付与する義務がある
[17条]。ここでの重要な要件は、法律上或いは事実上においても自国のサービス産業に有利となるような競争上の条件の変更となる恐れのある措置を講じないことにある。なお、加盟国は、約束を行っていない分野について内国民待遇を適用する必要がない。更に約束を行った分野であっても、一定の条件や資格要を特定の約束表に記載することによって制限を課すことができる。
このように、GATSは、特定の分野での市場アクセス或いは内国民待遇の約束を引き受ける義務を課していない。約束表においては、自国にとって目下のところ過度な要求と見なされる義務を回避或いは緩和するため、加盟国は、自由化を引き受けるサービス分野を選択し、さらにそれらに一定の条件或いは制限を加えることができるため、約束の範囲を自由に仕立てることができる。しかし、先にも記したようにGATS19条では、漸進的に一層高い水準の自由化を達成するため、引き続き交渉のラウンドを開始する義務を課しており、これに従って昨年から新たな交渉が行われている。
その他の義務:特定の約束を行った分野のサービス貿易に付随する義務として、客観的且つ公平な国内規制の実施すること[6条]、並びに国際収支の擁護のための制限を除いて支払い及び資金移動を制限しないこと[11条]が規定されている。
以上に見るとおり、サービス分野が、個々に特殊性を有していることに配慮したため、GATSは複雑な形態となっている。特に、GATSの自由化の原則と特定の約束についての理解不足による誤解が多いようであり、GATS事務局でも「GATS - Fact and Fiction」というタイトルの小冊子を出しているほどである
[⇒特定の約束に係る誤解を参照]。
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